大麦β-グルカン高用量摂取で腸内細菌叢の多様性が低下
コレステロールが低減したレスポンダーの菌叢に特徴あり

【背景】
β-グルカンは強い粘性を持って腸内を移動するため、同時に摂取した栄養成分が腸内を通過する時間を長くすることで脂質や糖の代謝に影響を与える。しかし、腸内細菌に与える影響を調べたヒト試験は少ない。大麦β-グルカンの摂取が、腸内細菌叢や腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸量、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)の患者の代謝に与える影響を調べた。

【方法】
試験食はβ-グルカンを15%含む大麦粉(Valechol)を小麦粉に混ぜて調製したβ-グルカンパンと対照の小麦パン。β-グルカンパンは100gあたり3.4gのβ-グルカンを含み総食物繊維量は9.6g、小麦パンはβ-グルカンを含まず総食物繊維量は4.8g(100gあたり)。被験者はメタボあるいはメタボ予備群の男女51人で、ランダムに2群に分けられβ-グルカンパンあるいは小麦パンを1日200g、4週間食べ続ける二重盲検試験を行った。試験食を摂取する以外の食事には制限を設けず、食事の一部を試験食に置き換えるように指導した。

試験前後に血液検査と経口糖負荷試験(OGTT)を行い、糞便に含まれる短鎖脂肪酸量や腸内細菌叢を解析した。解析対象はβ-グルカンパン群が27人、小麦パン群が16人で、試験前の身体計測値や血液検査データなどに有意差はなかった。

【結果】
試験前のエネルギー摂取量やたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維の摂取量は2群間で有意差がなかったが試験期間中は食物繊維の摂取量のみβ-グルカンパン群で有意に多かった(P=0.01)。試験後、両群とも体重は有意に減少したが(β-グルカンパン群0.89±1.32kg減、小麦パン群0.96±1.76kg減)、腹囲はβ-グルカンパン群のみ有意に減少した(0.43±0.72㎝減)。OGTTの結果やインスリン抵抗性の指標となるHOMA、QUICKIに有意な変化はなかった。総コレステロール値はβ-グルカンパン群のみ有意に減少したが(0.26±0.54mmol/L減)、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪には変化がなかった。

短鎖脂肪酸はβ-グルカンパン群でプロピオン酸が43.2%増加し(P=0.045)、酢酸/プロピオン酸比が31.5%減少した(P=0.008)。小麦パン群では酢酸が41.8%減少した(P=0.011)。酪酸などその他の短鎖脂肪酸の量は、両群ともに変化がなかった。

リアルタイムPCR法による腸内細菌叢の解析では、ヒトの成人の腸内細菌叢における主要構成菌群の1つであるClostridium leptum群の菌数がβ-グルカンパン群で25%減り、小麦パン群では変化がなかった。その他の菌群(Bacteroides-PrevotellaEnterobacteriaceaeClostridium coccoidesBifidobacteriumLactobacillus spp)では有意な変化がなかった。

16S rRNA解析の結果、β-グルカンパン群では介入後の腸内細菌叢の多様性と豊かさが低下した。主要な細菌門の構成比の変化も調べたが、両群とも試験前後で有意な変化はなかった。属レベルでも両群とも試験前後で有意な変化がなかった。ところが個別の被験者のデータをみると、β-グルカンパン群でBacteroidetes門の割合が増えた3人で、Bacteroidetes門に属する菌のうちPrebotella属の割合が介入前の5倍以上に増えるなど、類似した菌叢の変化がみられた。

β-グルカンパン群のうち介入によりコレステロールの低減作用がみられたレスポンダーと変化がなかったノンレスポンダーに分けて介入前の菌叢を比較したところ、レスポンダーではビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium fecale)とAkkermansia muciniphilaが有意に多いこともわかった。

【考察と結論】
本研究では、コレステロールレベルの低下のために推奨されるβ-グルカン量(1日3~5g)を超える高用量(1日6g)での介入を行った。高用量のβ-グルカンの投与は血清脂質の低下作用をばらつかせるという先行研究もあるので、※1※2今回の結果もその影響と考えられる。解析対象を腹囲100㎝超の女性と110㎝超の男性に限ると、β-グルカンパン群では総コレステロール値と体重の低下に連動して、中性脂肪値が有意に低下した。より重度のメタボ患者でコレステロール低減作用が得られやすいと考えられる。

短鎖脂肪酸はβ-グルカンパン群でプロピオン酸が有意に増加し、脂質代謝との関与が示唆されるがその機序については今後の研究が待たれる。β-グルカンパン群では腸内細菌の多様性と豊かさが減少した。この現象は一般的にはヒトの健康状態に好ましくないと考えられているが、多様性と豊かさの増加が大腸がんやポリープの進行に関与するという報告もあるので、※3※4必ずしも健康状態を決定づける指標とは言えない。

β-グルカンパンの摂取で菌叢が大きく変化した3人で極めて類似した菌叢の変化がみられた。またレスポンダーでは介入前のビフィズス菌とAkkermansia muciniphilaが多かった。これらの結果は、食事による介入の個別化、そのための菌叢解析の重要性を示している。

※1 J Nutr Metab 2012, 851362, 2012
※2 Plant Foods Hum Nutr 71, 1, 1-12, 2016
※3 Nat Commun 6, 6528, 2015
※4 Gut Microbes 1, 3, 138-47, 2010


【研究機関】
ムリノテスト社、リュブリャナ大学、リュブリャナ大学病院(いずれもスロベニア)

Alterations in gut microbiota composition and metabolic parameters after dietary intervention with barley beta glucans in patients with high risk for metabolic syndrome development
Anaerobe 55, 67-77, 2019