バーリーマックスでPrevotella増はフルクタンの影響か
腸内での段階的発酵が消化管機能改善に寄与?

【背景】
我々の先行研究(大麦の1品種「バーリーマックス」が腸内発酵を促し、消化管機能を改善)では、一般的な品種の大麦を摂取したマウス群に比べ「BARLEYmax(バーリーマックス)」を摂取したマウス群において糞便中におけるPrevotella属の腸内細菌数、回腸L細胞マーカーであるGPR43のmRNA発現量、ならびに消化管免疫の指標となる血清sIgA濃度が有意に高値であることが確認された。これはバーリーマックスに豊富に含まれるフルクタン、あるいはレジスタントスターチの影響が考えられる。そこで本研究ではフルクタンに焦点を当て、バーリーマックスに含まれるフルクタンが、マウスの腸内代謝に与える影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】
4週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)を1週間予備飼育し、1群10匹のコントロール群(CO群)、通常品種の「ハインドマーシュ」を含む飼料を与えるハインドマーシュ群(HM群)、バーリーマックスを含む飼料を与えるバーリーマックス群(BM群)の3群に分け、試験飼料を12週間摂取させた。

バーリーマックスとハインドマーシュに含まれる食物繊維類の量は表の通り。試験飼料はAIN-93G組成の飼料を基本に、脂肪エネルギー比は25%とした。総食物繊維量が5%となるようにCO群はセルロースで調整、HM群はフルクタン量がBM群と同量になるようにフルクタンが主成分のイヌリンを添加したうえでセルロースで調整、BM群はコーンスターチとバーリーマックスを置換して調整した。

バーリーマックスとハインドマーシュに含まれる食物繊維類の量(g/100g)

飼育期間最終週に新鮮糞を採取し、腸内細菌数はリアルタイムPCR法で測定した。解剖時に摘出した盲腸内容物の有機酸はガスクロマトグラフ質量分析を行った。回腸のL細胞マーカーのmRNA発現量はリアルタイムPCR法で、血清sIgA濃度はELISA法で測定した。

【結果】
終体重、体重増加量、飼料摂取量は有意差なし。以下、有意差があったものを列挙する(有意に高値は<、低値は>で示す)。
盲腸重量:CO群<HM群、BM群
LDL-コレステロール値:CO群、HM群>BM群
総コレステロール値:HM群>BM群
盲腸内細菌数
 Lactbacillus属:CO群、BM群<HM群
 Bacteroides属、Prevotella属、Clostridium leptum subgroup:CO<HM群、BM群
 Clostridium coccoides group:CO群、HM群<BM群
盲腸内有機酸量
 プロピオン酸:CO群<BM群
 酪酸:CO群、HM群<BM群
 乳酸:CO群<HM群、BM群
回腸L細胞マーカー
 GPR43:CO群、HM群<BM群
 ǸGN3、NeuroD:CO群<BM群
 PPARβ/δ:CO群>BM群
血清sIgA濃度:CO群、HM群<BM群

【考察と結論】
Prevotella属の増加は、BM群とフルクタンを添加したHM群の両群で確認された。先行研究ではフルクタンを含むBM群のみで有意に高値を示したことから、Prevotella属の増加にはフルクタンが関与している可能性が示唆された。また消化管機能については、先行研究と同様にバーリーマックスを摂取したマウスのみ回腸におけるGPR43のmRNA発現量、血清sIgA濃度が有意に高かった。これはフルクタンの影響ではなく、レジスタントスターチの影響か、バーリーマックスに含まれる発酵性の食物繊維類が腸内で段階的に発酵する影響と考えられる。

【座長から】
HM群の飼料にはフルクタンを添加しているが、BM群では(飼料中の食物繊維類が絡み合って存在する)コンプレックス構造になっていることも影響しているのではないか。

【演者の回答】
今回は簡易な方法としてフルクタンを添加したが、コンプレックス構造も関係すると考えている。今後の課題としたい。

【研究機関】
大妻女子大学、帝人

大麦品種BARLEYmaxに含まれるフルクタンがマウスの腸内代謝に与える影響
2019年5月18日 第73回日本栄養・食糧学会大会, 口頭発表

2019年6月25日掲載