大麦で脂質合成系の遺伝子発現量が減少
回腸では短鎖脂肪酸受容体、細胞分化が活性化

【背景】
大麦に含まれる水溶性食物繊維のβ-グルカンが生理作用を及ぼす臓器は消化管を含め多岐にわたるが、詳細な作用機序には不明点が多い。そこで本研究では食餌性肥満誘導モデルマウスに大麦粉を含む高脂肪食を摂取させ、回腸と肝臓から抽出した遺伝子のマイクロアレイ分析を行い、遺伝子発現量の変動が各代謝にどのように影響を及ぼすか網羅的に確認する事を目的とした。

【方法】
4週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)を1週間予備飼育し、1群10匹のコントロール群(CO群)と高β-グルカン品種「ビューファイバー」の70%搗精粉(全粒の大麦の粒を30%削った残りを粉にしたもの)を含む飼料を与えるBF群に分け、92日間実験飼料と水を自由摂取させた。試験飼料はAIN-93G組成の飼料を基本に、脂肪エネルギー比は50%、総食物繊維量が5%になるようにCO群はセルロースで、BF群はビューファイバーで調整した。

各種生化学分析のほか盲腸重量、盲腸内の短鎖脂肪酸量など測定し、マイクロアレイ解析は肝臓と回腸のtotalRNAを抽出後、10匹分を等量混合して実施、遺伝子発現量の定量にはリアルタイムPCR法(以下RT-PCR)を用いた。

【結果】
BF群では盲腸重量が有意に増え、腹腔内脂肪重量は低下傾向を示した。血清では主に総コレステロール、LDL-コレステロール、レプチンが低下した。肝臓重量が低下し、肝臓脂質ではコレステロール、中性脂肪が有意に低下した。糞中脂質も有意に低下した。

マイクロアレイ解析(DAVIDを用いてのエンリッチメント解析)から得られた結果から代表的な代謝経路をまとめると、BF群では肝臓のコレステロール合成や脂質合成に関する代謝の減少、回腸では細胞分化やNF-kBなど免疫反応に関わる代謝経路に関連する遺伝子発現量の増加がみられた。

マイクロアレイデータを用いた各代謝のマップ化と主要遺伝子発現量の定量分析を行ったところ、BF群では肝臓内でのコレステロール合成経路の抑制を確認。また律速酵素であるHMG-CoAと調節因子であるSREBP-2をRT-PCRで測定したところ、HMG-CoAはBF群で有意に低く、SREBP-2は有意差が見られないものの低値を示した。またHMG-CoAとSREBP-2の間で正の相関がみられた。

コレステロールから胆汁酸を合成する経路について、律速酵素であるCYP7a1がBF群で有意に低下し、調節因子であるLXRの遺伝子発現量が有意に低下した。これはBF群で合成される大もとのコレステロール量が少なかったためと考えられる。

BF群では脂質合成経路にかかわる遺伝子も一貫して発現が低下していた。RT-PCRでは、脂質合成に関わるSCD-1、GPAT、DGAT1・2の遺伝子発現量の有意な低下を確認した。また脂肪酸合成経路の律速酵素であるFASも低下傾向にあったが、SREBP-1cには有意な差が見られなかった。つまり肝臓内中性脂肪の低下は、主にグリセロール3リン酸からの合成経路の抑制によるものと示唆された。

回腸・肝臓の嗅覚受容体はBF群で変動した。中でも肝臓・回腸の双方で発現量が増加していたolfr763、olfr1336についてRT-PCRを行ったが、代謝への影響は明らかではなかった。

盲腸内の乳酸、短鎖脂肪酸の酢酸、プロピオン酸が増加していたことから、β-グルカンが腸内細菌によって代謝されたと示唆される。L細胞分化や関連する遺伝子発現量を測定したところ、BF群ではGLP-1の分泌に関わるプログルカゴンの増加傾向が見られ、糖代謝の改善に寄与していると考えられた。

【考察と結論】
大麦粉を与えた食餌性肥満モデルマウスの肝臓・回腸のマイクロアレイ解析を実施した結果、肝臓では主にコレステロール合成と脂質合成に関わる遺伝子発現量が減少、回腸では短鎖脂肪酸の増加に伴い短鎖脂肪酸受容体や細胞分化が活性化し、代謝に寄与していると考えられる。

【座長から】
低脂肪食の餌でも同様の変化はみられるか。

【演者の回答】
以前に行った試験では、高脂肪食の餌で糞中脂質量は低下しないがコントロール群と同等という結果が得られている。一方、中脂肪食を用いた場合は糞中脂質量が増加した。おそらく脂肪エネルギー比の影響で腸内細菌叢が変化し、代謝の変化につながっているのではないかと思われる。

【研究機関】
大妻女子大学、はくばく

高β-グルカン含有大麦を摂取したマウスの回腸および肝臓の遺伝子発現解析
2019年5月18日 第73回日本栄養・食糧学会大会, 口頭発表

2019年6月25日掲載