大麦β-グルカンでHMG-CoA還元酵素の比活性を低下
酸化ストレスを抑え脂肪細胞の肥大化を防ぐ

【背景】
大麦β-グルカンは、血中脂質値の低下、血糖上昇の抑制、インスリン抵抗性の改善、酸化ストレスの抑制、アレルギー反応の抑制といった多様な生理活性を有する。本研究は大麦β-グルカンが、食餌誘発性脂質異常ラットの血中脂質、アディポネクチン、HMG-CoA還元酵素の活性に与える影響の評価を目的とした。

【方法】
オスのSDラットを1週間の馴化ののち4群に分け(各群6匹)以下の餌の自由摂取で14週間飼育した。
5%の脂肪を含む通常食:C群
5%の脂肪を含む通常食、3週目から200㎎/㎏体重の大麦β-グルカン調製物を経口ゾンデで投与:C-BG群
23%の脂肪を含む高脂肪食:HF群
23%の脂肪を含む高脂肪食、3週目から200㎎/㎏体重の大麦β-グルカン調製物を経口ゾンデで投与:HF-BG群

大麦β-グルカン調製物はpH 4.0の50 mmolクエン酸緩衝液で粉砕した大麦から抽出した凍結乾燥粉末を用いた。

終体重(g)÷頭胴長(cm)÷頭胴長(cm)をBMIとして算出。解剖時に血液を採取し、血中脂質値、アディポネクチン値、肝臓組織中のHMG-CoA還元酵素の比活性(HMG-CoA/メバロン酸比)などを測定。精巣上部、内臓、後腹膜から分離した脂肪を脂肪総量(TFP)、TFP÷体重×100(%)を肥満指数(ADI)とした。肝臓、心臓、脂肪の病理組織検査も行った。

【結果】
BMI、TFP、ADIはC群に比しHF群で有意に高かった。HF群に比し、HF-BG群ではBMI、TFP、ADIの上昇が有意に抑えられていた。総コレステロール値、中性脂肪値、LDL-コレステロール値はC群に比しHF群は有意に高く、HDL-コレステロール値は有意に低かった。HF群に比し、HF-BG群では総コレステロール値、中性脂肪値、LDL-コレステロール値の上昇およびHDL-コレステロール値の低下が有意に抑えられていた。

HMG-CoA還元酵素の比活性は、値が低いほど活性が高いことを意味する(活性が高いとメバロン酸が多く生成する)が、HF群はC群やHF-BG群に比し有意に低かった。アディポネクチン値は、HF群はC群に比し有意に低かったが、HF-BG群ではアディポネクチン値の低下が抑えられる傾向がみられた(P=0.77)。

HF群では血清中や心臓、肝臓中の過酸化脂質量(マロンジアレルヒド)の増加や抗酸化指標(還元型グルタチオン濃度)の減少が認められ、肝臓の病理組織検査では脂肪の変性、脂肪沈着、炎症、脂肪滴の蓄積、脂肪細胞の肥大が認められた。一方HF-BG群では変性して壊死した細胞や炎症が少なく、肝臓組織の外観は正常だった。脂肪細胞の肥大も抑えられていた。

なおC群とC-BG群では上記のすべての検討項目において有意差がなかった。

【考察と結論】
大麦β-グルカンは高脂肪食を負荷したラットにおけるHMG-CoA還元酵素の比活性を抑え、脂質異常への進展を抑制することを確認した。肥満などの炎症性および代謝性疾患の誘因となる酸化ストレスを抑えることも示された。

【研究機関】
バハラティ・ウイメンズ大学(インド)

【麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

  • 研究者らが調製した大麦β-グルカンの純度や組成の記載がなく、この方法では粗精製品の可能性がある。大麦β-グルカン調製物の抗酸化能を測定したとあるが、大麦β-グルカンそのものに抗酸化能はない。
  • 大麦β-グルカン調製物を200mg/kg 体重投与したとあるが、体重が200~350gのラットへの投与量は40~70mgになる。大麦β-グルカンの有効投与量はラットでは500~1000mg(混餌の場合)であると考えられるため 10分の1量で有効としている点にも疑問が残る。
  • 肝臓のHMG-CoA還元酵素の活性は抽出物のタンパク質当たりの活性で示すのが通常であるが、HMG-CoA/メバロン酸比で示すという粗い指標で結論を出している点も疑問である。

THE MODULATING EFFECT OF BARLEY β-GLUCAN EXTRACT ON HIGH FAT DIET INDUCED OBESITY-A BIOCHEMICAL STUDY IN ALBINO WISTAR RATS
Int J Pharm Pharm Sci 11, 4, 49-54, 2019

2020年3月25日掲載