高アミロース大麦は2型糖尿病患者の食後高血糖を抑える

【背景】
でんぷんは分解速度が比較的速いアミロペクチンと比較的遅いアミロースで構成される。ほとんどの穀物のでんぷんに含まれるアミロース量は15~30%だが、遺伝子組み換えにより、でんぷんの99%がアミロース(高アミロースでんぷん)の、高アミロース大麦(AmOn)が開発された。※1

高アミロースでんぷんは通常のアミロースでんぷんよりも分解スピードが遅く、またレジスタントスターチの含有量が比較的多い。※1※2そのためAmOnの摂取は、通常の小麦や大麦を摂取した場合よりも食後高血糖の抑制効果が高いと期待できる。本研究は、AmOnの摂取が2型糖尿病患者の血糖応答に及ぼす効果を検討することを目的とした。

【方法】
2型糖尿病に罹患する白人男女20人(平均61歳、女性13人、平均HbA1c 6.8、平均BMI 31)を対象とするランダム化単盲検試験。試験食は小麦粉100%のパン(100%小麦)、小麦粉の50%を大麦粉に置き換えたパン(50%大麦)、同75%のパン(75%大麦)、小麦粉の50%をAmOnに置き換えたパン(50%AmOn)の4種類(表)。試験は最低6日のウオッシュアウト期間を置き、被験者は試験前24時間から薬を服用せず、一晩の絶食後の朝、水とともに10分以内で試験食を摂取した。

試験食品の成分組成

食事開始10分前と食後0、10、20、30、45、60、90、120、150、180、210、240分に採血し、血糖値、インスリン濃度、グルカゴン濃度を測定した。食事開始10分前と食後0、30、60、120、180、240分の中性脂肪、遊離脂肪酸、GLP-1、GIPの濃度も測定した。

【結果】
試験を完遂した18人を解析対象とした。50%AmOn摂取後の血糖上昇曲線下面積は、100%小麦、50%大麦、75%大麦の場合に比しそれぞれ34%、27%、23%減少した(いずれもP<0.001)。75%大麦摂取後の血糖上昇曲線下面積は、100%小麦の場合に比し11%減少した(P=0.030)。

50%AmOn摂取後のインスリン上昇曲線下面積は、100%小麦、50%大麦の場合に比しそれぞれ24%(P=0.035)、35%(P<0.001)減少したが、75%大麦の場合との有意差はなかった。また75%大麦摂取後のインスリン上昇曲線下面積は、50%大麦の場合に比し22%減少した(P=0.021)。グルカゴン濃度に有意差はなかった。

50%AmOn摂取後のGIP上昇曲線下面積は、100%小麦、50%大麦、75%大麦の摂取後に比しいずれも有意に減少した。75%大麦摂取後のGIP上昇曲線下面積は、100%小麦摂取後に比し有意に減少した。GLP-1上昇曲線下面積に有意差はなかった。中性脂肪と遊離脂肪酸に関しては、空腹時における測定値の差異から評価が困難だった。

【考察と結論】
50%AmOnは、100%小麦や50%大麦、75%大麦に比し、2型糖尿病患者の食後の血糖応答を有意に改善した。インスリン応答は100%小麦や50%大麦に比し有意に低かったことから、血糖応答の改善はインスリンレベルの上昇によるものではないことを示している。50%AmOnのGIPが他の3つに比し有意に低かった理由の1つは高含有の食物繊維による血糖値の上昇抑制と考えられる。

高アミロース大麦の摂取が血糖応答を改善するメカニズムにはいくつかの可能性がある。高アミロースでんぷんは調理時に糊化しにくく、でんぷん顆粒の表面に硬い殻を形成することで消化速度が遅れる。またでんぷんの老化によって形成されるレジスタントスターチも通常の大麦より含有量が多くなることが報告されており※1、これらの特性が食後の血糖応答に影響を及ぼすと考えられる。

小麦粉を50%AmOnあるいは75%大麦に置き換えたパンの摂取は2型糖尿病患者の食後高血糖の抑制に寄与することが示唆された。

【研究機関】
Aarhus大学病院、Silkeborg地域病院、Aarhus大学、Copenhagen大学、Plantcarb社(いずれもデンマーク)

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

系統的レビューとメタ解析により、全粒穀物の摂取は食後GLP-1濃度に影響しないが、食後60~180分のGIP濃度を増加させることが報告されている※3 。本研究の結果は、対象が糖尿病患者であるため応答が異なったのであろう。血糖上昇抑制効果は、でんぷんそのものの消化速度とレジスタントスターチの影響と考えられるが、βーグルカンとの相互作用などの考察に乏しいのがやや残念である。

※1 BMC Plant Biol 12, 223, 2012
※2 Crit Rev Food Sci Nutr 63, 27, 8568-8590, 2023
※3 Nutr Rev 81, 4, 384-396, 2023

Beneficial glycaemic effects of high-amylose barley bread compared to wheat bread in type 2 diabetes
Eur J Clin Nutr Published: 8 Nov 2023

2023年12月25日掲載